ここは幽世・大牟田。
ひょんな事から幽世に迷い込んだヤスは、化け物達に追われ、わけもわからず逃げ惑う。
「このままではあの化け物達に殺されてしまう!嫌だ!こんな所で死にたくない!」
恐怖に怯えつつも、生きる希望を捨てずに息を切らせながら走り続ける。
すると、前方に大きな赤い鳥居が見えてきた。
「鳥居?きっとここは神社だ!神聖な力が化け物達から僕を守ってくれるかもしれない!」
藁をも掴む思いで鳥居をくぐり、死に物狂いで境内を駆けるヤスの前に、荘厳に佇む本殿が現れた。
化け物達から身を隠す為、本殿に入り、内側から扉を閉じた。
乱れた呼吸を無理やり落ち着かせ、息を潜めながら扉の向こうの気配を探る。
何も聞こえない。
どうやら化け物達はこの神社の鳥居から入って来れないらしい。
真っ暗な本殿の中で当面の危機を凌いだ事に安堵する。
しかし、それも束の間・・・
「誰だ、お前は?」
静まり返った本殿の奥から突如聞こえた低い声。
恐る恐る振り返るヤス。
暗闇で何も見えない・・・
そう思った矢先、薄らと巨大な大蛇の姿が浮かび上がってきた。
爛々とした目、耳まで裂けた口。
「ひぇ!!!」
悲鳴にもならない情けない声を出して、その場に座り込んでしまう。
(逃げなければ!逃げないと僕の人生はここで終わる!)
だが、腰が抜けてしまい、立つことすら叶わない。
「あ、あぁ・・・お・・・お願いします、助けて・・・助けて下さい・・・襲わないで・・・襲わ・・・」
恐怖で口が上手く回らない。
痙攣にも近い震え、今にも破裂しそうな激しい鼓動。
すると首をもたげた大蛇が目の前まで近づいてきた。
「助けて・・・だと?お前、この世界のもんじゃねぇな。そうか、向こうの世界から迷い込んできやがったのか。」
大蛇はニヤリと笑い
「元の世界に戻りたいんだろ?俺がお前を助けてやらんでもないぞ。但し、条件があるがな。」
「た・・・助けてくれるんですか?お願いしますお願いします!何でもしますから助けて下さい!お願いします!」
助かる!自分は生きてここから出られる!
絶対的な絶望から一縷の希望が見えたヤスは、この機会だけは逃さまいと、大蛇の言う条件の内容なんて二の次と言わんばかりに助けを乞う。
安堵の為か、涙が溢れ出て止まらない。
(良かった・・・僕は助かるんだ!)
「ありがとうござい・・・」
まさに一瞬の出来事。
大蛇の顎が大きく開き、ヤスを飲み込んでしまった。
大蛇に飲み込まれたヤスの体が眩しく白く光る。
同時に大蛇の巨大な姿がヤスと一体化し始め、徐々に白光が消えていく。
そこには人の形はしているが、明らかに人間ではない異形の姿が・・・
「本殿の扉を開けろ」
ヤスの頭の中に大蛇の声が響き渡る。
恐る恐る手を伸ばし扉を開けると、そこはヤスが知っている普段の大牟田市の景色が広がっていた。
「戻って来れた!良かった・・・本当に良かった・・・」
これでまた今までと変わらない平和な日常に戻れる、と信じて疑わないヤス。
自分が異形の姿に変化しているとも気付かずに・・・
